まずは、リスク管理のための注意点としては、狂犬病を除き、人畜共通感染症は、早期発見・治療で適切な処置を施せば、深刻な病状に陥るものはなく、過度に恐れるこはないということです。但し、老人、子供、基礎疾患を持つ人など免疫機能の働きが弱くなっている場合があるので注意が必要です。
そのうえで、①動物(ペット)との節度ある接触を心掛ける、②衛生管理、すなわち適切な糞便の処理と接触後の手洗いの励行、③動物(ペット)及び飼い主が異常を感じたら、すぐに獣医師、医師へ相談する。この場合、咬まれた等その症状に至るまでの状況を正確に伝える、④野生動物、エキゾチックアニマル(輸入動物)は基本的にペットにはむかないことを認識して、通常以上に注意を怠らない、⑤群飼育、異なる産地の動物を一緒に飼育することは可能な限り避ける、などでリスク管理を行いましょう。
それでは、ここからは講義でも紹介された代表的な症例等にふれて行きます。
まず、家庭で飼われている犬・猫など家庭動物の感染症は、その原因が常在細菌(例;大腸菌)によるものがほとんどです。病気といえば、がん、認知症などの方が治療ははるかに困難ですが、常在細菌の中でもブドウ球菌、これは抗生物質の耐性ができているものが多いので注意が必要です。犬・猫の外耳炎、膀胱炎などを引き起こす原因となります。
それに対して、シェルター等で飼育されている犬・猫など多頭飼・集団飼育の場合は、ケンネルコフ、犬パルボなどウィルスによる感染症が多くなります。特に集団生活での感染は致命的な結果を招くことがおおいので、ワクチンでの予防が必須です。5種ワクチン接種を行っていれば、これらウィルス感染の予防となります。
昨今、カメやイグアナ等の爬虫類をペットとして飼う方も増えていますが、これら爬虫類はサルモネラ菌の保有率が非常に高くなっています。また海外から輸入される齧歯類(ネズミなど)は、パスツネラ、レプトスピラなどの菌保有率が非常に高くなっていることに注意すべきです。海外よりの動物輸入は、集団輸送という形式をとるので、動物にはストレスがかかります。このストレスは免疫力を弱め、感染症の罹患リスクを高めていることに留意すべきです。
次に、講義で紹介された人畜(人獣)共通感染症(ズ-ノーシス)について、少し詳しく触れておきましょう。
①クリプトスポリジウム症
原虫が原因となる感染症です。海外では、1993年以降、欧米を中心に水道水からの感染が問題となりました。通常の塩素処理では、死なないということですね。(日本は大丈夫、汚染されていません)その他の感染経路は、生の飲食物、感染動物の糞便などへの接触です。潜伏期間は、4~10日。軽度の水溶性下痢(血便無)、腹痛、発熱、嘔吐、倦怠感などが症状ですが、いずれも1~2週間で治癒します。但し、子供や免疫系に疾患を持つ方(AIDS等)などは重度化する危険があるので注意が必要です。
②カプノサイトファーガ症
カプノサイトファーガ・カニモルサスという細菌による感染症です。犬の74%、猫の57%がその口腔内に保有しているというデータがあり、しかも犬・猫では無症状なので注意が必要です。感染経路は、咬傷、掻傷です。感染すると、発熱、倦怠感、腹痛、吐き気などの症状を呈します。重症の場合は、髄膜炎、敗血症などを引き起こして死に至る場合があります。、脾臓摘出者や免疫疾患を持っている人は要注意です。治療薬は、ペニシリン。重症化するケースは稀なので、とにかく咬まれたら、イソジンでもいいですから。すぐ傷口を消毒、そして医師のアドバイスを受けてください。ちなみに、何故か中年男性の死亡例が多いそうです。
③トキソプラズマ症
原虫による感染症です。鳥類を中間宿主、猫を終生宿主としています。猫では、感染すると肺炎や脳炎を起こします。人への感染経路は、猫の糞便処理から、または加熱不十分な食肉(主として豚肉)からとなります。感染すると妊婦には流産や胎児に障害をもたらすケースがあるので、妊娠中の方は特に注意が必要です。治療には、サルファ剤、ピリメタリンなどが用いられます。
④クリプトコックス症
真菌を原因とする感染症で、犬・猫・人間ともに潜伏期間は不明です。気道感染、皮膚感染で、犬・猫では皮膚の潰瘍、肉芽腫、猫で眼底異常が見られます。人への感染では、呼吸器症状、神経症状、皮膚潰瘍などで抗真菌薬の投与で回復しますが、免疫不全患者は重症化するケースが多いので注意が必要です。予防としては、空調管理が重要となります。
⑤エキノコックス症
多包条虫という寄生虫による感染症で、潜伏期間は10年以内。犬、キツネなど糞便に触れることから感染します。齧歯類(ネズミなど)を中間宿主として、肉食獣を終生宿主としていますが、終生宿主となる犬、キツネなどはほとんど無症状です。人に感染すると、肝臓に寄生して肝機能障害など重度の疾患を引き起こす場合があります。
その他にも注意すべき人畜共通感染症は数多く存在します。東京都動物愛護相談センターのHPに一覧がありましたのでリンクを貼っておきましょう。
詳細は、こちらを参照してください。→人畜共通感染症一覧
では、次章は動物福祉に配慮した飼養管理について、です。
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